祖父が亡くなって一年。田舎に戻り親族と共にささやかに一周忌が開かれた。
大工の棟梁として地元で大きな雇用を生み、地域に大きな功績を残した祖父だったけど、祖父自身は本当に寡黙な人だった。人前で怒ることは決してなく静に諭す。そんな祖父を多くの人が慕い、後に続いた。
(宮大工としても活躍した祖父。そのお弟子さんたちがつくったお寺に祖父は眠っている)
いつも祖父は湯呑茶碗で大好きな日本酒を飲んでいた。親族との話の中で、祖父が長年使用していた湯呑茶碗へ話が及んだ。そこにはこんなことが書いてある。
苦しいこともあるだろう
言いたいこともあるだろう
不満なこともあるだろう
腹の立つこともあるだろう
泣きたいこともあるだろう
これらをじっとこらえてゆくのが
男の修行である
山本五十六
許しを得て、僕がこの湯呑を引き継ぐことにした。
さぁ、東京へ帰ろう。
僕の男の修行は始まったばかりだ。